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第60回日本アレルギー学会学術大会報告

 2010年11月25日から27日まで東京フォーラムにおいて、「第60回日本アレルギー学会学術大会」が開催されました。日本アレルギー学会60周年となる、きわめて重要で記念すべき学会となりました。その今回の学会会長は獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科の福田健教授で、参加者が4千人を超す極めて盛大な学会となりました。
 今回のプログラムの大きな特徴は非常に多くの国際的な研究者の招聘が行われたこと、会長講演のほかにもプレナリー(全体)講演がもうけられたこと、いわゆるPRO/CONのディベート・セッションや、この1年間の学問の進歩をまとめたYear in Reviewのセッションがつくられたことなどで、米国アレルギー学会などに準拠してのプログラムの国際化がおおいに感じられました。そして日本アレルギー学会設立60周年の記念シンポジウムとして、「理想のアレルギー専門医とは何か?」をめぐる国際シンポジウムが開催されました(後述)。
 当アレルギーセンターからは免疫学、皮膚科、小児科、耳鼻咽喉科、呼吸器内科から非常に多くの教育講演、シンポジウム、ワークショップの演者そして一般演題が出され、今回の学会に大きく貢献したものとおもいます。教授陣をはじめ教員クラスは座長としても活躍して、埼玉医大勢は学会場をおおいににぎわせました。センター長は60周年記念国際シンポジウムの日本サイドの講演者として、「アレルギー専門医のあるべき理想の姿」に関しまして、米国のKelso教授、英国のFrew教授(アレルゲン免疫療法の研究で世界的に高名)、アジアを代表する第一人者である韓国のMoon教授と計4名で国際講演会を行い、そののちに、座上討論(写真、メディカルトリビューン編集部ご提供)を行わせていただきました。
 総合的アレルギー診療の本場といえば米国であり、古くから独立した研修・診療システムとしてのアレルギー科が機能していますが、カナダや韓国なども類似のシステムで運営されているようです。Kelso教授によれば米国では現在75の機関でアレルギー科臨床後期研修(専門医取得)のプログラムが用意されているとのことです。ちなみに呼吸器内科は米国でもさすがにどこにでもあって、実に約130のプログラムがあるそうで、アレルギー科やリウマチ科などのほうが研修プログラムの展開規模は小さく(この両診療科はおおむね類似の規模のようです)、これらは大学病院中心となるようです。内科もしくは小児科の3年間の研修を終えたのち、米国で年約300名のアレルギー科フェローが専門医取得を目指して研鑽を積んでいる由です。全員がいわゆるトータル・アラージスト(total allergist, 総合的アレルギー専門医)で、すべてのアレルギー疾患を専門的水準で診療するほかに当然のようにアレルゲン免疫療法を駆使しますが、せっかく取ったライセンスも10年限定であって、その間に更新研修を受けて再合格をしないと、米国の場合は雇用を失ってしまうようなケースもあるそうです。
 センター長は日本のユニークな専門医制度、すなわち、内科・小児科・耳鼻科・皮膚科などの基盤診療科関連専門医、としての2階建て制度を紹介し、そして近未来のあるべき方向性について論じさせていただきました。日本の内科領域の場合は基盤診療科がほとんどの場合呼吸器内科で、アレルギー専門医とのdual specialtyで活躍する医師が主流であり、その場合の診療患者数ではアレルギー疾患が非常に多く、非アレルギー疾患の総数よりも多くみていることもわかりました。センター長は現在World Allergy Organization(WAO)の専門医教育委員会のアジア地区の代表ということになっており、その立場から、国際標準的なトータル・アラージストの育成が患者中心主義的にみても必要であり、特に日本では活発でないことが特徴的になってしまっているアレルゲン免疫療法の普及上も重要であることを強調させていただきました。講演後、WAO同委員になられている世界各国の教授たちにこの講演スライドをシェアしておくりましたが、みなさま肯定的なレスポンスやエールをおくってくれるかたばかりでした。はてさてそれで、日本アレルギー学会の専門医制度は実際のところ、どのようになっていくことでしょう???アレルギー疾患に苦しむ日本の患者さんたちのためにも、何年か後にトータル・アラージストが活躍する時代がきていて、振り返ってこのHP記事をみたときには笑い話のようになっているとよいのですが!!!
 本学会は日本アレルギー学会学術大会として第60回のメモリアルな大会であったとともに、埼玉医科大学アレルギーセンターとしても基盤学科横断的な研究内容を紹介し始めることのできた重要な大会となりました。最後にこの場をお借りしまして福田健会長をはじめ、この学会の大成功を導いたスタッフのみなさまがたに心より祝意を申し上げる次第でございます。(文責:永田真)

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