埼玉医科大学病院は日本で最初のアレルギーセンターを擁する大学病院です。それゆえ当院は県唯一のアレルギー疾患医療拠点病院となり、県よりアレルギー疾患対策諸事業の委託を受けて活動しています。アレルギー疾患では民間医療など医学的証拠のない検査や、各種の商品が横行しているなどの問題があります。市民皆様にはアレルギー疾患の本来の最新の診療を知っていただきたく、埼玉県民を中心とした市民への情報提供事業として、毎年学校法人埼玉医科大学の公式市民公開講座の1枠を「アレルギー」特集として使わせていただいております。本年度は埼玉医科大学川越クリニックビルの6階大会議室でのLIVEと、WEBでのハイブリッド開催により、2025年1月25日(土)13時30分から行われました。WEBの事前登録等は本学市民講座の中ではかなり多いとのことで、一般の方々のアレルギー疾患への関心の高さがうかがわれました。
筆者講演の冒頭スライド
二本立てで前半はまず筆者(呼吸器内科教授/アレルギーセンター センター長 永田真)が「喘息(ぜんそく)の最新治療」について話をさせていただきました。長年各種の市民講座を担当させていただき、その約半分は喘息関係の話をさせていただいておりますが、今回は昨秋に、筆者が2021年版に引き続いて副委員長を務めさせていただきました日本アレルギー学会の「喘息予防・管理ガイドライン2024」が発刊されたため、その特に日進月歩の治療を中心にお話をさせていただきました。喘息では吸入性ステロイドを中心とした吸入療法が標準的です。しかし喘息患者さんの過半数は、室内塵(ハウスダスト)の中の“ダニ”に対するアレルギー反応が病気の源となっています。これらの患者さんでは、ダニに免疫をつけていく原因療法で、いわゆる“体質改善”を行うアレルゲン免疫療法が推奨されています。また重症喘息ではかつてはステロイド内服薬の連用などを要したものですが、その重症化を起こしている各種の物質をピンポイントで阻害する抗体医薬(生物学的製剤)が成果を上げています。筆者は人気漫画「はたらく細胞」の患者さん向きバージョンである“ぜん息編”などの医学監修を担当しています。その主人公?で喘息の重症化を起こしている白血球の一種“好酸球”の暴走を阻止する、抗IL-5療法についてのお話を紹介いたしました。
講演をされる埼玉医科大学病院皮膚科/アレルギーセンター宮野恭平講師
後半は皮膚科の宮野恭平講師が、「じんましんとは?金属アレルギーとは?ちょっとタメになる話」とのタイトルでお話をされました。じんましんは「はたらく細胞」の中では“マスト細胞”さんが暴れてかゆみ物質のヒスタミンなどをまき散らしておこるのですが、原因は特定できないものが多いということ、膨疹を形成しますが疑った際はスマホで写真を撮っておくと良いということでした。眠気の少ないタイプの抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)が有益であること、また発汗物質であるアセチルコリンが出てきておこる“コリン性じんましん”では入浴や運動など発汗時にでやすいことなどをおはなしされました。金属アレルギーについてですが、金属製品に接触した皮膚を通じてアレルギー反応が生じる局所型の金属アレルギーの他に、粉塵などに含まれる金属を吸い込んだり、歯科治療で用いる金属や、原因金属が含まれる食品などを取り込んだりすること(経口、経粘膜などの非経皮的ルート)でアレルギー反応が生じる、全身型金属アレルギーがあるということでした。意外なところに落とし穴があって、化粧品ではビューラーやアイライナーの口金、ファンデーション容器など、皮革製品では加工工程で使われていることがあるクロムなど、携帯電話、硬貨、そしてニッケルが多く含まれている豆やナッツ類等でアレルギー症状を引き起こすことがあるなど、非常に興味深いお話でした。宮野先生はこれらの新規治療をわかりやすくお話され、参加者にもとてもわかりやすかったとおもいました。
LIVE会場の様子
アレルギー疾患は21世紀の国民病ともいわれ、国民の1/3は何らかのアレルギー疾患をお持ちともいわれます。そういった背景もあって参加された皆様や、ご家族などにも患者さんがいらっしゃる場合が多いのでしょう。みなさま講演を熱心にお聞きくださっていました。各講演終了後には皆さんからのご質問に回答もさせていただき、参加者とその大切な方々にとって有意義な市民講座となったと思います。埼玉医科大学市民公開講座では2026年も1月に「アレルギー」特集の開催を予定しております。お身内等にアレルギー疾患患者さんがおられる方はもちろん、広く市民の皆様のご聴講をお待ちいたしております。
(文責:永田真)