食物アレルギーは従来から原因食物を回避することが適切な治療であると認識されてきました。確かに成人で食物アレルギーによるアナフィラキシーを起こしたケースで、特定の食物がアレルゲンと同定された場合には、その回避指導と、アドレナリン自己注射システム(商品名エピペン)による長期管理で非常にうまくいくことが経験されます。
一方で、例えば小児でアトピー皮膚炎のケースで、幸か不幸か(?)複数の食物アレルゲンがIgE抗体陽性所見を示したような場合、しばしば極端な回避指導が行われている症例を目にすることがあります。実際には病因アレルゲンとして関与していない広範囲の食物を摂取回避させることは、発育上も好ましくない場合があります。
本年3月16日付のコラムで米国におけるピーナッツアレルギーの経口免疫療法のトライアルをご紹介しましたが、日本でも、牛乳やタマゴなどのいわゆるdaily foodsを中心に、専門医の指導管理下で徐々に増量させながら食べさせてアレルギーを克服する経口免疫療法(耐性誘導)のアプローチが一部の施設で始まっています。
10月14日、埼玉医科大学第4講堂における第25回の学内アレルギーフォーラムにおいて、この分野の日本における先駆者である神奈川県立こども医療センターの栗原和幸先生においでいただきご講演を頂戴しました。栗原先生の施設では患児を入院させ、しっかりした管理下で増量しながらアレルゲン食物を食べさせる急速導入型の免疫療法(耐性誘導)を行われてきました。その結果、全例でとはいかないものの、特にIgE抗体が高値でない症例を中心に、食べられないものが食べられるようになる、すなわち耐性誘導の成功例を経験されてきました。印象に残ったのは14歳までもろもろの食物を味わえなかった少女のケースで、初めてアイスクリームをたべられるようになったという感動的なエピソードのご紹介がありました。現段階では研究レベルではありますし、せっかく食べられるようになってもうっかり間をあけるとアレルギー症状が再発するなど、これから解決されていくべき問題点はあるとおもいます。また小児領域では成長とともに食物アレルギーが軽快することがあるので治療効果が得やすいかもしれないですが、成人では生涯のものとして“できあがってしまって”いて、とくに重篤なアナフィラキシーが重要な症状であることからも、臨床応用は困難かもしれません。アレルギー医療の先進国である米国でも、これらの研究は成人ではほとんど行われていません。
しかしながら生涯食べられなかったかもしれないものが、症状なくして食べられるようになるという患者さんの喜びは大きいでしょうし、有効でかつ安全性の高い施行方法が充分に確立されていけば、専門医の管理指導下で、主に小児領域では、近未来的に広く臨床応用されていくことになるかもしれません。(文責 永田真)