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米国アレルギー学会のご報告

 2010年度の米国アレルギー学会議(American Academy of Allergy, Asthma & Immunology, AAAAI)が2月26日から3月2日まで、ルイジアナ州ニューオリンズで開催されました。当センターからは筆者がアジア太平洋地区組織委員会出席のため、また内科系若手スタッフが3つの発表演題をひっさげて出席してきました。
 ハリケーンの猛威に崩壊寸前に陥った同市ですが復興はめざましく、ジャズ発祥の南部の街としての活気に満ち満ちていました。おりしもバンクーバー五輪で米国アイスホッケーチームが決勝まで進んだ時期でもあり(カナダの天才児シド・クロズビイに金の夢は絶たれましたが)、米国の学問仲間たちも相当その話題にいれこんでいました。
 AAAAIには筆者は1990年から参加を続けています。AAAAIの大きな特色は単に大規模なだけでなく、「年1回こっきり」のこの集会で、臨床研修的プログラムから臨床免疫・アレルギー学に関わる最新の知見にいたるまで、1年のUPDATEがほぼ網羅されることにあります。そのベースには連日開催されるプレナリー(全員参加)・セッションの活用があり、またその活気には連日PRO CON(ディベート)・セッションが多数、華々しく展開されていることも貢献しているとおもいます。日本のアレルギー学会とはプログラム構成の根本的な相違があり、大いに参考にすべき点があるとおもいます。
 今回のプレナリーやシンポジウムで大きく注目を浴びていた話題には、食物アレルギーにおける“食べて治す”経口免疫療法のトライアル、ステロイド抵抗性の重症炎症病態に関与するTh17誘導のメカニズム、喘息等におけるキーサイトカインであるIL-13のマクロファージによる持続的産生、また米国FDAの声明に立脚した喘息における長時間作用型β2刺激薬の離脱(ステップダウン)に関わるメッセージ(喘息コントロールがつけば可能な限り離脱させる)などが盛り込まれていました。
 ピーナッツは米国人の1.1%がアレルギーを示し、米国におけるアナフィラキシーと死亡の大きな原因です、この病態に対して厳重な管理下でピーナッツ成分を増量しながら経口投与し、免疫学的寛容をつくろうとするいわゆる経口免疫療法の二重盲験比較試験の報告がありました。成功率はそれなりに高いものの、導入後にアナフィラキシーを再度起こすケースもあるようです。しかしながら経口免疫療法はこれまで食品の回避とエピペン(アドレナリン自己注射システム)しかなかった食物アレルギーの長期管理に、近未来的には光明をあたえてゆくかもしれません。
 Th17細胞は当センターの研究テーマのひとつでもあり、重篤でステロイド抵抗性の好中球性炎症を惹起するサイトカインIL-17を産生することで注目されています。その誘導にはIL-1β, IL-23, IL-6, TGF-βなどが関与し、アレルギー病態が基礎にあるところにウイルスやクレブシエラなどの病原微生物が介入することでこの流れが生じる研究成果が示されていました。また急激に傷ついた組織(外傷や、気道なら刺激物吸入もそうでしょうか)もTh17誘導に必要なIL-6の組織濃度をあげるそうで、これもまた例えば喘息における重篤な増悪に関与するかもしれません。こうした免疫学的システムに拮抗する治療の創薬が有益かもしれません。
 IL-13はアレルギーで重要なTh2サイトカインで、重症喘息で増加しています。ウイルスによる抗原提示細胞へのシグナルからnatural killer T(NKT)細胞が誘導されるとこれがIL-13を産生するとともにIL-13受容体をマクロファージに発現させ、またNKTはマクロファージにCD1b依存性にシグナル伝達を行ってマクロファージが持続的なIL-13産生を行うようになる、という研究がプレナリーで講演されました。ちなみにウイルス感染と喫煙のダブルパンチは効果的にIL-13を誘導するそうです。かかるマクロファージの活性化と持続的IL-13が重症喘息で関与するという興味深い情報でした。
 AAAAIを通じて非常に強く感ぜられたのは、日本以外のすべての先進国ですでに広く臨床でもちいられている舌下免疫療法や、今回報告のあった経口免疫療法をふくめ、アレルギー疾患の自然経過を修飾してかつアレルギー病態に起因する複数疾患を包括的に管理しようとする免疫療法と、また基本的なことですが真の病因アレルゲンの同定と回避への熱意、がいつもながら溢れている学会ということです。薬物療法は対症療法にすぎず、原因治療の改善とさらなる開発が必要だ、という心意気が常にこの学会にはあるのです。複数アレルギー疾患を専門的にかつ包括的に治療する、真の意味での「アレルギー専門医」(total allergist)を世界に先駆けて世に送り続けてきたこの国と、この学会への敬意を覚えざるを得ず、いつもながら深い感銘をうけてAAAAIの会場を後にした次第です。(文責:永田真)

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