ブエノスアイレスで開催された世界アレルギー学会議(World Allergy Congress)にアレルギーセンターの内科系スタッフが出席してきました。出国前、センター長はスピードスケートの”喘息もちの金メダリスト”清水宏保選手に軽い気持ちで「世界選手権みたいなもんですよ~」とメールしたら、「ぜひとも、がんばってきてください!!!」と“勝負師”らしいエールが返ってきました。
センター長は今回、国際臨床教育委員として招聘されました。同委員会において、国際社会では喘息、食物アレルギー、鼻・結膜炎、アレルギー性皮膚疾患や薬剤・昆虫アレルギーに至るまで、アレルギー体質というひとつの病態に起因してひとりの患者さんに多岐多彩に発症する複数の疾患をトータルに管理・治療する能力をもち、しかもアレルゲン免疫療法を武器として、包括的に自然経過をコントロールしようとする、”Total Allergist”が当然のように大活躍していることに愕然としました。さらに欧米はもとより、お隣の韓国から南米諸国に至るまで、アレルゲン免疫療法が臨床の場できわめて日常的に行われ、しかもすでに注射型と舌下療法の両者が選択可能な時代となっていることに何とも情けない気分になりました。日本のアレルギー研究は一流ですが、アレルギー診療のほうは標榜科として認可され、専門医制度ができてまだ歴史が浅く、米国なみに”Total Allergist”が活躍してゆく時代はまだまだこれからでしょう。アレルギー疾患は21世紀の国民病の様相を呈しつつありますし、個々の診療科別に、当該臓器のみをみて、その結果患者さんが複数診療科をまわらねばならないような古い診療スタイルは埼玉医大の目指す患者中心主義とは程遠いものがあります。先日、とある厚労省斑会議の際にも、厚労省高官のかたが”米国型Total Allergist”の育成をふくむ当センターの事業にご関心を示してくださいました。”Total Allergist”を育成するうえでも、日本の医科大学としては比較的早い段階からアレルギーセンターを立ち上げることができた、本学とわれわれの責務は非常に大きいものとおもいます。
プレナリー(全体)セッションでは、Global warmingにかかわる学会提言がなされました。温暖化に伴う環境の変化で、植物類や真菌類などの多彩な病因アレルゲンが増加することなどを介して、世界のアレルギー疾患にかかわる問題はますます増大するというのです。これには国家や民族を超越した叡智を結集して、我々は次世代のためにアクションをおこしてゆかねばならないでしょう。また臨床免疫学の最新の進歩、重症喘息の病態研究のトピックス、じんましんの新国際ガイドライン等々について、数多くの貴重な特別講演やシンポジウムを拝聴しました。今回、地球の真裏であったためか、メガ学会であるにも関わらず日本からの参加者は少なめだったのですが、当センターの外来診療を担っている若手スタッフたちが、喘息の病態あるいは治療についての新知見を発表して活躍してきました。なお本学会の報告記の執筆依頼を2つの医学雑誌から頂戴しており、2010年に刊行される号に各々掲載される予定です。(文責:永田真)