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第67回アレルギーフォーラムが開催されました

5月12日木曜夕刻、第67回アレルギーフォーラムが開催されました。前回第66回は完全WEB開催のみだったのですが、今回は医学部6年生の講義などに使われている本学のメイン講堂でもあります第3講堂での現地開催と、オンラインでも参加可能として、いわゆるハイブリッド開催とさせていただきました。
今回の特別講演は、東京慈恵医科大学葛飾医療センター小児科の堀向健太先生に、「ペット・アレルギー ~光と影」というご演題名でご講演を賜りました。
堀向先生は、昨日筆者が会長を担当させていただきました第70回日本アレルギー学会学術大会(2021年10月8~10日横浜市&WEBのハイブリッド開催)におきまして、公式Twitter等で大変にお世話になった先生でした。ここでは今回のご講演の一部を紹介させていただきます。

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本講演のオープニング・スライド(堀向先生の御許可を頂戴しています)

 アレルギー診療に携わるものとして、患者さんから「ペットを飼っていいですか?」と聞かれることは、患者さんの年齢に拘わらずに「来たか~」と身構える問題です。一般に血中特異的IgE抗体検査やプリックテストと、詳細な問診情報を組み合わせて診断します。問診情報では、旅行などでペットから離れると改善するとか、逆に飼育している家庭に訪問すると症状が悪化する、などが重要です。注意点として、感作されていてIgE抗体があっても症状がでない、つまり“ペットと共存可能な”症例があります。これにはIgEの作用を阻害してくれるIgG4抗体が産生されている可能性などが想定されています。

さて、ペット飼育では身体的・心理的幸福度の向上などの“光の部分”がある一方で、毛のあるペットアレルゲンにより感作リスク、そして喘息発作リスクは大きく上がることが指摘されています。
我が国におけるペットの飼育世帯率は2020年の調査結果でイヌ約12 %、ネコ10%弱と高く、この両者(両動物?)が最も重要と考えられます。室内塵1g中にイヌの主要アレルゲンCan f 1が2㎍以上、ネコの主要アレルゲンFel d 1が1㎍以上で感作されやすい閾値となりえると考えられます。この閾値を超える家庭はなんと。。。犬を飼育していると98%、ネコを飼育していると99%にも達すると報告されているというのです。米国での研究では、イヌやネコアレルゲンにより、全米で毎年50万~100万件の喘息発作が起きているとも計算されているそうです。出生前から飼育してあった場合にはアレルギーの予防に働くとのデータもありますが、基本的には感作されると飼育は勧めにくいとおもいます。
例えば東京都での調査では小児の26%でネコアレルゲンに感作されているというデータがあります。ただし小児喘息の有病率はそこまで高くはないわけですので、ネコ粗抗原に対するIgE抗体がすべてではないわけです。実際には、ネコやイヌのアレルゲンにも複数のコンポーネントが存在していて、そのうちのいくつかに複数感作されていくと喘息を発症しやすいということがあるようです。ネコやイヌアレルギーにおいても、コンポーネント診断の進歩がまたれます。
さてネコなどを家庭内で飼育していると、アレルゲンが衣服などに付着して各所へと拡散していきます。ネコを飼っている子が多い学校教室では、室内気中のネコアレルゲンが多いことが報告されています。そしてネコを飼っていない子の衣服についたアレルゲン量は、登校日の後に増加することや、夏休みの最後の週と比較して学校開始後でネコを飼っていない子の喘息症状が増加し薬物使用が増えたことなども報告されています。
対策では、まず患者ごとの考え方やライフスタイルを充分に聴取・考慮したうえで環境調整やあるいは薬物療法によってペットとの共存が可能か否かを検討する必要があります。そのうえで対応を組み立てていくのであって、初めからペットを手放せ!ではないということのようです。

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WEBにてご講演をされる堀向先生

 基本的な対策としてペットを洗浄することが考えられますし、イヌやネコを洗浄することによって室内気中の主要アレルゲン、Cai F 1やFel d1濃度は確かに減少します。ただしその効果は1週も維持されず、週2回以上必要となることから容易ではないようです。空気清浄機は気道過敏性を改善したという報告も存在するものの、実質的な効果があるか否かについては否定的な報告も多いようです。薬物療法として、喘息の場合には吸入ステロイドなどの使用量が増えることが指摘されています。しかし飼育していない喘息患者との増悪回数の差は大きくないとの報告もあって、個別の必要薬物が至適状態となるよう注意を要するようです。譲渡などによってペットを手放すことが喘息コントロールを改善させえますが、薬物療法などで効果が不十分な場合などに考慮するということでした。なおイヌでもマルチーズだとアレルギーがおきないなどという誤情報も流布されているようですが、8種類の犬種のアレルゲン量を比較した研究などがあって、基本的に低アレルゲンの犬種・猫種というものはないということでした。将来的にはネコアレルゲン免疫療法が舌下法をも含めて有効とする報告があり、またさらにネコに主要アレルゲンであるFel d1を含む複合ワクチンを接種し、ネコに抗Fel d1抗体が誘導させアレルゲン量を低下させたとする報告を紹介され、未来への希望を提示していただきました。
素晴らしい御講演を賜りました堀向健太先生へこの場をお借りして感謝を申し上げたいとおもいます。なお次回第68回は9月8日、国立三重病院小児科の長尾みづほ先生をお招きして開催の予定です。 (文責:永田 真)

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