6月17日木曜夕刻に第64回アレルギーフォーラムが開催されました。従来は学内の講堂で開催されますが、コロナ禍でありオンラインでの開催となりました。
特別講演は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・皮膚科病態学分野教授の室田浩之先生より「アトピー性皮膚炎の痒みと病態論に基づいた治療:最近の話題」というテーマでご講演を賜りました。
アトピー性皮膚炎の病態はType2炎症、皮膚バリアの異常、痒みの3つの要素が互いに複雑に関与し合うとされています。アトピー性皮膚炎は痒み過敏の状態にあり、これにより掻破行動がみられ、免疫系の賦活化をさらに惹起します。つまりアトピー性皮膚炎では痒みを抑えることは、炎症の鎮静化において非常に重要な要素であるといえます。アトピー性皮膚炎の痒みの誘起因子として温熱刺激(アーテミンと呼ばれる神経栄養因子の皮膚への蓄積による)、発汗、衣類による軽微な刺激、脱衣による温度変化(高い温度から低い温度への変化)などが挙げられ、通常では痒みを感じないような小さな刺激でも痒みを誘発するalloknesis(アロネーシス)の状態にあります。
アトピー性皮膚炎と汗について触れられていかれましたが、アトピー性皮膚炎患者は汗をかこうとしても、皮膚の炎症下では汗腺の障害(汗の組織中への漏出、汗孔の閉塞)や汗成分の変化(汗中グルコース濃度の増加、抗菌ペプチドの変化)により、最終的な発汗量が減少することによるうつ熱や皮膚の乾燥、皮膚常在菌の変化がみられ、さらにアトピー性皮膚炎が増悪します。また、汗中に混入したマラセチア抗原への暴露による感作、マスト細胞の脱顆粒が生じることも皮膚炎の増悪を助長します。ヒトに対するヒスタミンイオントフォレーシスを用いた研究では、ヒスタミンはアセチルコリン誘導性発汗を抑制することが示されていますが、抗ヒスタミン薬投与下ではヒスタミンの関与する乏汗が改善できることが示されています。
以上よりアトピー性皮膚炎治療において、乏汗によるうつ熱や皮膚の乾燥の改善、ヒスタミンによる汗の組織中漏出の改善など、汗に対するアプローチも重要であることを解説していただきました。アトピー性皮膚炎の診療では皮膚炎の評価・治療に重点を置きがちですが、発汗を含めた患者自身の痒みを今一度評価する重要性を学ばせていただきました。素晴らしい御講演を賜りました室田浩之先生へこの場をお借りして感謝を申し上げます。 (文責 皮膚科 宮野恭平)