当アレルギーセンターは、好酸球を中心としたアレルギー性炎症をテーマとした学術集会「アレルギー・好酸球研究会」(The Workshop on Eosinophils in Allergy and Related Diseases, WEA)https://www.sec-information.net/eosinophils/data/announce.htmlを主催しております。WEAはアジア太平洋アレルギー・喘息・臨床免疫学会(Asia Pacific Association of Allergy, Asthma and Clinical Immunology: APAAACI)と提携しており、本研究会の優秀演題10題が、同学会の公式学会雑誌Asian Pacific Allergyに原著論文等として掲載されております。
本研究会のロゴマーク
本年度は11月3日、Web開催にて開催されました。広くアレルギー性炎症について好酸球を中心に、基礎から臨床まで幅広い一般演題が25題、加えて教育セミナー2題、特別講演1題と盛りだくさんの内容でした。今年度は新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、多くの学会が中止、あるいはWeb開催やハイブリッド型開催に移行しましたが、みなさんWeb開催に慣れて、むしろ遠方からも参加しやすくなる利点もあると感じられます。今回は、このような社会的背景もあってか、開始時点で既に100名を超える方が参加されており、盛況を呈しておりました。
一般演題で、当センターからは呼吸器内科の宮内幸子先生が、スギ花粉およびその主要アレルゲン成分Cry j 1が自然免疫系(PAR-2)を介して直接的に好酸球を活性化する可能性を提示されました。さらに呼吸器内科の中込一之先生はC型ライノウイルスの受容体であるCadherin-related family member3(CDHR3)が直接的に好酸球の接着反応を誘導し、エフェクター機能を活性化させることを示しました。また、臨床研究の発表として、呼吸器内科の内田貴裕先生が、ダニまたはダニとスギの同時アレルゲン急速免疫療法の比較を行い、同時アレルゲン急速免疫療法が、気管支喘息における吸入ステロイドの減量効果を発揮することを示されました。
教育セミナーでは、大阪大学生体防御学教室教授・茂呂和世先生が、2型自然リンパ球(ILC2)の爆発的なIL-5/IL-13産生のメカニズムについて、mRNAの安定化の側面(転写後遺伝子発現制御機構)などをふくめて詳細に解説頂きました。IL-33刺激により転写→翻訳→タンパク合成が進みT2サイトカインが産生されると考えられていますが、mRNAを分解させるTristetraprolin(TTP)がIL-33刺激により発現が低下することによっても、分解されなかったmRNAが残り、リサイクルされることで大量T2サイトカインが産生されるというお話が印象的でした。また、ILC2の中でもある種のクラスターが特に線維化に関与しえるという最先端の研究内容が披露されました。
特別講演では、同じ大阪大学の免疫細胞生物学研究室教授・石井優先生がお話をしてくださいました。同先生らは、破骨細胞を例に、生体イメージングにより細胞の形態の違いを見出したことをきっかけに、異常な破骨細胞は正常と異なる転写因子で支配されていることを突き止められました。さらに、肺線維症モデルマウスの肺を観察し、線維化が生じる過程で膨化したマクロファージ(Mφ)が生じ、2日後に消失してから線維化が生じ始めることを見出されました。実際にこのMφを正常マウスに移植すると線維化が生じ、肺の線維化を誘導するMφの存在を証明されました。今までの組織生検では採取時点のみでの評価であったのが、今後生体イメージングを用いて非侵襲的に、そして継続的に患部の観察を行う事で、診断に多角的なアプローチができる可能性が示されました。
今回の本研究会は例年に違わず内容が研究から臨床まで幅広く、教育セミナーや特別講演では最新の知見をご提示頂き、充実した学術集会となりました。今後も本研究会がアレルギー性炎症を論じる貴重な会として発展し、アレルギー学の向上に寄与していければ有難いと思っております。(文責;植田穣)