10月21日土曜日、東京千代田区の学術総合センターにおいて、アレルギー・好酸球研究会2017が開催されました。本研究会は1980年代後半に当時の獨協医科大学アレルギー内科福田健先生が米国メイヨクリニック医科大学ご留学から帰国され、日本に好酸球研究の技術をもたらしたことに端を発しております。そして当時同科教授であられた牧野荘平先生らによって設立された全国規模の学術集会です。80年代当初はアレルギー疾患での好酸球が「悪玉」として大変に注目された時期であり、好酸球に特化して、また製薬企業の全面的後援にて開催されていましたが、2013年以降は民間移行し、筆者が代表世話人となって埼玉医科大学アレルギーセンターが事務局として汗をかかせていただき、広く「アレルギー性炎症」をテーマとした学会形式の研究会として発展してきております。
今回の会長は千葉大学アレルギーリウマチ内科教授の中島裕史先生でした。一般演題25(すべて口演)、特別講演が2題で盛大でかつ華やかな学術集会となりました。埼玉医大アレルギーセンター勢といたしましては小児科・総合診療内科・呼吸器内科のスタッフが参加いたしました。
小児科の植田穣助教は、生活環境中アレルゲンとして知られる家塵ダニが、実はアレルゲンとしての感作状態とは関係なく、直接的に好酸球を活性化しえることを発表されました。
これはいわゆる自然免疫反応に属する活性化であって、ダニに感作されていなくとも!喘息などのアレルギー疾患患者では家塵がたまらぬような環境指導が重要であることを示唆する貴重な医学情報でした。同先生はその後の他大学からの演題などに対しても活発に質問などをされ、埼玉医大小児科のこの分野におけるサイエンスでのプレゼンスを示す活躍ぶりでした。 総合診療内科の野口哲助教は、昨年米国アレルギー学会雑誌に発表された同先生の博士論文である、細胞外マトリックス蛋白であるペリオスチンによる好酸球活性化作用について、これがβ2刺激薬ホルモテロールで抑制がかかることを発表されていました。呼吸器内科の家村秀俊助教は先日のインターアズマ(国際喘息学会)で発表された内藤恵里佳助教と埼玉医大での同級生で、本学を卒業されてまだ4年目の新鋭です。呼吸器内科杣知行准教授の御指導によって、日本人における好酸球型重症喘息のプロファイリングについて発表され、とくに末梢血好酸球数が高値でなおかつ呼気NOも高値である症例では、喘息急性増悪の頻度が極めて高いことを示される、臨床的に非常に有意義なご発表内容でした。質疑等もまだ4年目とはとてもおもえぬ落ち着きぶりでした。
さて本学会では小生の師匠である、米国の超大御所・ウイスコンシン大学アレルギー科のWilliam W Busse教授と、我が国の誇る自然免疫研究の第一人者であられる、理化学研究所の研究担当理事であって前慶應大学免疫学教授の子安重夫先生という、ふたりの超ビッグネームの巨匠に特別講演を頂戴いたしました。Busse教授は好酸球型重症喘息の基礎と臨床について御講演してくださり、そのなかでとくに好酸球増殖・活性化因子であるIL-5の意義、またとくに最近注目を浴びていてご自身もNature誌にレビューを書かれている、活性化好中球との相互作用などにつき、大変クリアーにお話をしてくださいました。子安先生は、自然リンパ球とくに2型自然リンパ球(ILC2)の意義を中心にご講演をしてくださいました。同研究所の茂呂和世先生また共同研究者の慶応大学呼吸器内科加畑広樹先生などのお仕事を中心に、ILC2の活性化機構あるいはとくにステロイド抵抗性の獲得機序等々について、我々臨床医にもわかりやすく解説していただき、大変によい勉強をさせていただきました。なお同日夜にはこの学術集会の裏方である、当アレルギーセンター内科系スタッフにて、Busse先生をお囲みする慰労会を開催し、サイエンスの話題中心に楽しいひと時をすごせていただきました。
昨今、製薬企業さんの諸事情などによって、かれらのスポンサーシップによって成立していた多くの医学研究者向け研究会が消失いたしてきております。本研究会は前述いたしましたように当アレルギーセンターに民間移行してもなお、全国のこの分野の研究者みなさまの熱意に支えられ、医師主導型の学術集会としてここまで運営を続けてきて来られていることには、「学問の神」へ感謝を捧げられずにはおれません。
来年の本研究会は2018年9月22日土曜日に、同じ学術総合センターにおいて、日本大学医学部分子細胞免疫アレルギー学の岡山吉道先生を会長として開催されます。このコラムをご覧くださったかたで、好酸球をふくめた「アレルギーの基礎・臨床研究」にご関心のある先生におかれましては、HP https://www.sec-information.net/eosinophils/data/announce.html などをご参照のうえ、ぜひご参加を御検討頂戴できればありがたいものとおもっております。(文責:呼吸器内科 永田真)