2016年9月17日から18日の合計2日間、福岡国際会議場で第26回国際喘息学会日本・北アジア部会が開催されました。この学会は2013年の第23回のときは呼吸器内科の永田真教授が会長となって東京で開催されたそうですが当時自分はまだ学生でした。今回、当センターでは小児科・呼吸器内科から一般演題また招待プログラムの司会・演者として多数が参加いたしました。台風接近で、飛行機の遅延等も心配され、両日共に大雨の中での開催とはなりましたが、プログラム自体は円滑に進行し、活況を呈しておりました。
福岡国際会議場は博多駅から車で10分程度にあり、晴れていれば海辺の潮風香る広い綺麗な会場でした。
第1日目は外国からの招待講演が中心に行われました。特に印象に残った講演内容についてですが、シンポジウム1のAsthma in AsiaではGary WK Wong/Dae Hyun Lim の両先生方による喘息の疫学を中心としたご講演でした。アジア地域だけでなく、その他との地域との比較検討を踏まえ、喘息の動態変化や原因となるアレルゲンに地域差、環境差もあり、人種による影響だけでない事などのお話しがされました。特別講演1『AIT-Allergen Immunotherapy in Asthma:update 2016』ではGiorgio Walter Caronica 先生のお話ではアレルゲン免疫療法の皮下注射法(SCIT)/舌下法(SLIT)を中心とした、欧州と米国の差や、SCITにおける複数免疫療法の事や、また免疫療法製剤のなかでもメーカー間での製剤の違いなどがあるため一概に論じることはできないなどの話は興味深い内容でした。
呼吸器内科の内田貴裕助教が行っている急速アレルゲン免疫療法の臨床研究の発表はポスター展示でした。当科に入院して行うSCIT急速導入療法で、ダニ(+スギ)の維持量迄を短期間に行うもので、今後の課題として、適切な維持量の設定やスギ併用の是非を含む、安全性や効果がテーマになっていくと思われます。今後の研究での評価が注目されます。内田貴裕先生は筆者の1級先輩でまだ卒後4年目ですが、堂々たる発表でのご活躍で、とても頼もしく感じました。
第2日目、当アレルギーセンター長である永田真教授(呼吸器内科)が特別講演3として、『Patient-centered にみた気管支喘息の包括的管理』というタイトルで招待講演をされました。内容については、患者個人の喘息のフェノタイプを考慮し、各々に合った喘息の治療が必要である事を、アレルゲン回避が非常に有効な症例など具体的な成績を通しての説明がありました。アレルゲン免疫療法の意義についてや、LPS(エンドドキシン)による好酸球浸潤を示す研究データを含む重症喘息の悪化のメカニズムなどの当センターでの研究成果など、筆者にも大変わかりやすくお話しをしていただきました。最後のスライドでは当センターが事務局で運営しています「アレルギー・好酸球研究会」(2016年10月22日が次回研究会)のアナウンスもされていました。
小児科の徳山研一教授はシンポジウム「喘息診療に活かす検査」でご司会を担当されていました。学生時代に講義で教えていただいた徳山先生がこのような学会で座長をされていることを嬉しくおもいました。また小児科の植田穣先生は、ミニシンポジウムに選ばれての口演で、呼吸器内科との共同研究の「ダニアレルゲンによる好酸球の直接的な活性化」についてのご発表をされていました。アレルゲンとしての感作状況とは無関係に、ダニが好酸球機能の刺激因子として直接活性化をおこしてしまうという内容で、非アトピー喘息の患者さんでも室内塵のなかのダニを吸入してしまうと、喘息増悪を生じ得るというショッキングな内容で注目を浴びていました。呼吸器内科の中込講師は、呼吸器内科と総合診療内科との共同研究である、好酸球が細胞外マトリックス蛋白であるペリオスチンに接着してしまうこと、この反応は好酸球の活性化を引き起こすことを発表されていました。
今回の学会は専門分化された国際学会で、国内で海外の著名な先生方の講演を聴ける貴重な経験、勉強をさせていただきました。その中で埼玉医大勢は大活躍で、母校が喘息・アレルギーの臨床や研究では日本では代表的な施設であるということはとてもよくわかりました。アレルギー治療も今後、今ある対症療法に加え、各患者さん個人に合ったフェノタイプ等考慮したオーダーメイド治療の時代へと進んでいくものと感じました。学会内容を聞き、アレルギーの分野は今後もさらに発展していくと思いました。
(文責 呼吸器内科 家村秀俊)