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“よくわかる子どもの喘鳴診療ガイド -喘鳴を科学する-”を出版しました

このたび、“よくわかる子どもの喘鳴診療ガイド -喘鳴を科学する-”(徳山研一:編集、診断と治療社:発行)“を出版いたしましたので紹介させていただきます。
本書は日常診療上遭遇することの多い“喘鳴”にスポットをあて、的確な診断や治療のためのガイドブックというコンセプトで作成いたしました。実地医家や研修医のみならず小児の呼吸器やアレルギーを専門とする先生方も読者対象とし、喘鳴の発生機序とその多様性、診断・治療上の留意点など喘鳴の基礎から臨床まで網羅した内容としました。
本書の刊行にあたっては、足立雄一先生(富山大学)、高瀬真人先生(日本医科大学多摩永山病院)、藤澤隆夫先生(三重病院)に編集協力者になっていただき全体の構成についてご助言いただきました。また執筆に当たっては、呼吸器・アレルギー分野の本邦における第一人者の先生方からご快諾をいただきました。埼玉医科大学関係では当小児科教室のアレルギーグループメンバーである植田、盛田、板野、古賀のみならず、小児外科の古村教授、耳鼻咽喉科/ アレルギーセンターの上條准教授、埼玉医科大学国際医療センターの住友教授・安原先生に分担執筆いただきました。諸先生方の協力で迅速に刊行することが出来た次第です。
本書の企画意図について、以下に“序文”の抜粋を示します。医療関係者の方々におかれましては、本書を是非ご一読いただきご意見・ご批判いただければ幸いです。

よくわかる子どもの喘鳴診療ガイド


序文
-メカニズムを理解して喘鳴の治療を科学する-

子ども、特に年少児では、よくゼーゼーやヒューヒューといった呼吸に伴う雑音、すなわち喘鳴が聴取されます。これは気道がもともと狭いためで、様々な原因で起こります。そのため原因の鑑別診断が重要なのですが(それによって治療方針も変わります)、必ずしも十分な鑑別がなされていない場合がみられます。
例えば、ゼーゼーするので、即喘息と診断され喘息治療薬が投与されるといったことは少なくないようです。それで症状が改善すればよいのですが、効果がないのに同じ治療が継続されていることがあります。このような状態に不安を感じ、セカンドオピニオンを求めて受診される患児ご家族が時にいらっしゃいます。実際受診時の聴診ではゼーゼー聴こえるのですが、鼻水を垂らしていて口腔内の視診では後鼻漏があり、鼻汁を吸引してあげるだけで喘鳴がすっきり消失、などという場合も少なからずあります。このような症例で考えられる問題点は、喘鳴の原因が適切に診断されていないことに加え、治療効果がなかったにもかかわらず診断を再考しようとせず漫然と治療を継続していたということです。
一方診断は正しくても喘鳴に対する治療がovertreatmentなのではないかと思われることがあります。例えば、重症な喘息発作で入院した子どもに初期治療をしっかり行うことは大切なのですが、呼吸困難がすでに消失している時期にゼーゼー(ほとんどは wheezes ではなくrhonchiです)が続くという理由で全身ステロイドなどの強力な治療が依然として行われているような場合です。症例によりますが、ぜんそく発作の回復期には気道過分泌の結果生じた分泌物が残るため喘鳴は長引くものです。このような症例に全身ステロイドをまだ続ける必要があるでしょうか?
こういった喘鳴の診断・治療にまつわる問題が生じる背景として以下のようなことが考えられます。1つは喘鳴をきたす疾患を鑑別するということに慣れておらず、ゼーゼーしている患者さんに対しては、通り一遍の対応・治療方法で済ましている場合です。一方、喘鳴の原因疾患は正しく診断されているのですが、喘鳴の発生機序の多様性については考慮されず、とにかく喘鳴が聴こえている間は原因疾患の治療を画一的に継続する、という場合があるかもしれません。喘鳴の治療に当たっては、喘鳴の出現する機序は単一ではなく、それぞれの喘鳴の病態に応じて必要な治療法が異なることを認識しておく必要があります。即ち、喘鳴の出現機序を目の前にいる患者さんごとに頭の中で整理しながらその場その場でベストな治療法を選択していく必要があります。しかしながら、現在までこれらの点を踏まえた医学教育が充分なされてきているとは思えません。
そこで、子どもの喘鳴を診察する機会のある先生方(小児科医、こどもを診察する小児科以外の先生方、あるいは研修医の方たち)を対象に、喘鳴発生の機序を考えた喘鳴性疾患の解説書を刊行したいと考えました。-以下、略-
喘鳴の診療は画一的でなくその場その場で適切な対応は異なってくると思われます。また正解は必ずしも一つとは限りません。個々の症例の喘鳴の原因診断や治療を決めるのは読者である先生方自身です。本書を参考に個々の症例の治療法についてのベストアンサー を考えていただければと思います。本書は喘鳴性疾患について新たな視点から解説したフロンティア的な出版物のため、喘鳴の分類法などについてはまだまだ改変すべき点があろうかと思います。またエビデンスが不十分で、経験的な記述にならざるを得なかった内容もあります。これらの点を含め、色々とご意見・ご批判いただければ幸いです。
喘鳴はone of the common signs ですが、日常診療において適切な対応が必ずしも行われていない現状があります。現在,医学の領域では様々な診療ガイドラインが作成され、効率的な診断・治療が求められています。 “喘鳴”という症状に対して,本書がより科学的な診療を行うための一助となれば幸いです。

(文責:徳山研一)

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