2015年9月11日、埼玉医科大学病院内講堂において第42回アレルギーフォーラムが開催されました。今回の演者は国立成育医療研究センターの大矢幸弘先生でした。
皆さんご存知ですか?乳幼児期からのスキンケアが後にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーに大きな影響を及ぼすかもしれないということを。
スキンケアを乳児期から施行することで食物特異的抗原への反応やアレルギー発症が抑制されたというデータが近年相次いで報告されています。このため現在では、炎症を起こしている部位(皮膚)からアレルゲンが体内に侵入しやすくなっているため特異的IgE抗体が産生されやすくなり色々なアレルギー疾患(食物アレルギーや喘息など)が発症しやすくなっているという考えが主流になっています。
「食物アレルギーは母親の食事制限で発症回避可能か?」という疑問に関しては、妊娠時期や授乳中の母親の食物摂取制限は子供の将来的な食物アレルギー発症を抑えられないということが海外の研究データで示されています。また、「食べさせたことが無いのに、うちの子供は初めて食べたものでアレルギー反応が出たのだけれど?」とお思いになる親御さんも少なくないと思います。しかし、本人が食べていなくてもご家族に食べている方がいませんか?食物アレルギーの抗原感作は腸管からだけではなく、経皮感作が重要なようです。例えば鶏卵に関してですが、本人は食べたことが無い・食べていない状態であっても住んでいる家で鶏卵が調理されていると、家の中の埃の中に鶏卵の抗原が混入しています。これが、赤ちゃんの皮膚炎症部位から体内に侵入し抗原感作が成立してしまうとのことでした。大矢先生は食物アレルギー発症を予防するために重要なことは『経皮感作を防ぐ』、即ち『皮膚の炎症を抑制する/コントロールすること』『アトピー性皮膚炎の治療をしっかり行うこと』であることを強調されていました。
興味深い症例として同じような抗原感作、皮膚症状、病状経過をとっていても、生後4か月から治療した患児と生後11か月から治療(主にスキンケア中心)をうけた患児では、前者は治療開始後特異的IgEが低下し、被疑食品摂取可能となったのに対し、後者では特異的IgEはむしろ高値を示したままで被疑食品摂取によりアレルギー症状を誘発した、即ち食物アレルギーが確立してしまったとのお話をされました。もちろん個人差や環境因子すべてが同じ条件ではないので皆が皆そうなるとは言えませんが、『早期治療・早期介入』で食物アレルギー発症は予防可能な可能性を示されました。
食物アレルギーの発症予防はアトピー性皮膚炎の発症予防・早期治療が重要な役割を果たすことから乳児期のスキンケアがかなり重要なようです。成育医療センターのデータではスキンケア実施群は未実施群と比較し2歳時点でのアトピー性皮膚炎発症率を40%ほど低くすることが出来たようです。中間解析時点で有意差が生じたというお話でしたからかなりの有効性と思います。
昨今話題の食物アレルギーですが、発症を防ぐのは「食物を摂取しないこと」ではなく、小さいころから『しっかりスキンケアを行い皮膚の炎症を抑制すること』のようです。そのためにも適切な外用薬治療が必要です。中途半端な薬の使い方では皮膚の炎症は完全に抑制されず、むしろ増悪する恐れもあります。外見からは赤みなどが見つからなくても皮下での炎症は継続しているため、きれいな状態になっても数日間に一度は抗炎症薬を使用する『Proactive療法』の紹介もありました。
今回のお話し、特にスキンケアについて興味を持たれた方は是非当センター外来にご相談ください。
文責 小児科 盛田英司