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第40回埼玉医科大学アレルギーフォーラムが開催されました。

 今回は東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科 言語聴覚専攻 教授 松谷幸子先生から「好酸球性中耳炎はアレルギー性疾患か?」というテーマで御講演を賜りました。松谷先生は、好酸球性中耳炎を発見された先生であり、今回御講演を拝聴できたことは貴重な経験でした。今回の講演は、疾患概要、問題点、治療法、疾患名の由来についてなど、非常に興味深いものでした。
 好酸球性中耳炎とは、簡単に説明しますと、耳漏所見がニカワ状(ゼリー状)であり、耳漏・中耳粘膜への多数の好酸球浸潤を呈する慢性中耳炎のことです。「中耳に起こる喘息」であると申し上げるとわかりやすいかと思います。滲出性中耳炎型、慢性穿孔性中耳炎型、肉芽型に分類され、その80%が両側性であるとのことです。主症状は耳閉感、耳のかゆみです。通常の慢性中耳炎と比較すると穿孔が大きいという特徴もあり、細菌感染を起こしやすく、伝音難聴の程度が高度になる場合もあります。肉芽型はより重症度が高く、難聴のみならずめまいや顔面神経麻痺なども合併することがあるそうです。
 問題点ですが、①ニカワ状(ゼリー状)の耳漏が非常に除去しにくいこと②感音難聴を合併すること③ANCA関連血管炎性中耳炎との鑑別に苦慮すること④経過が長く、確立された治療法がないこと。中でもやはり最大の問題点は再燃を繰り返し聾を来す可能性のある疾患ということだと思われます。①のため、一人一人に費やす処置時間が長くなってしまうことも一つの課題であるとのことでした。③に関しては、難治性中耳炎の代表として、ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)がありますが、中でも特にチャーグストラウス症候群との鑑別が困難であり、それぞれの予後にも違いがあるため、耳鼻科医としては苦慮するところであります。さらに、④に関しては、経過の長い疾患であることは、患者さんに不安を与えドクターショッピングをしてしまう方が多くいるとのこと。これがさらに難治を引き起こす原因であろうということもお話いただきました。
 治療法としては、ヘパリン点耳・洗浄、抗アレルギー剤、抗体治療、鼻洗浄・ステロイド点鼻、そしてやはり確実なのはステロイド治療とのことでした。ケナコルトを鼓室内に注入する方法が第1選択とのことでした。全身ステロイド治療の適応症例は、高度な肉芽を伴うもの、末梢血の好酸球の割合が高いもの、難治である感染を伴うもの、急激発症の感音難聴を伴うものであるとのことでした。ステロイド全身投与後ステップダウンし、局所ステロイド療法に持ち込めれば理想的だとのことでした。
 疫学についてもお話くださいました。好酸球性中耳炎は50~60代をピークに女性に多い疾患です。肥満は重症化因子だそうです。気管支喘息の合併は90%に認め、アスピリン喘息やアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎の合併もあります。特にアスピリン喘息合併例は要注意とのことです。気管支喘息の重症度が高く、喫煙者で気管支壁の肥厚がある人には中耳炎を合併しやすいとのことでした。70~80%に慢性副鼻腔炎も合併しており、中耳炎も含めてOne airway one diseaseとして解釈される疾患であるとのことです。頻度は0.05~0.12人/10万人/年とのことですが、難治性であるため加算的に増加傾向にあります。
 以上より、難聴・耳閉感があり、耳がかゆく、喘息悪化時に耳の状態が悪化し、ステロイド治療が奏功するような方にはこの疾患を疑うということになります。
 ここからが発見者からこそ聞ける大変興味深いお話でした。好酸球性中耳炎はそもそも、粘膜そのものに治癒機転がなく、耳漏がなかなか改善しない難治性中耳炎ととらえられており、他の中耳炎と区別すべきだと主張されていたわけですが、元をたどるとこのような症例は1947年のKochから報告があり、1967年にIgE発見の報告がなされる以前からこの疾患に関しては、アレルギー性中耳炎としての報告がいくつか出ていたとのことです。しかし、全身のIgEが必ずしも高値なわけではなく、耳管周囲の状態も悪くなく、さらに副鼻腔炎術後に発症するという特徴から、I型アレルギーに対する治療法を用いていては治癒しないということ、局所に好酸球浸潤が高いことなどが徐々にその特徴としてとらえられていきました。そこで最終的に松谷先生らが好酸球性中耳炎とう名称を提唱されたそうです。しかし昨今では、貯溜液内にはIgEが血清の10倍ほどに上昇していることなどもわかり始め、局所アレルギーという概念に含まれるのではないかという知見も示されました。重症化する前にオマリブマブという抗IgEモノクローナル抗体使用でその後のステロイド使用量を抑えることもできるそうです。
 以上の様に、病気の発見から治療、今後の展望までという壮大なテーマをとてもわかりやすくお話してくださいました。最後に、訓示として、「今目の前にある難題は、明日の教科書である」という内容のお話をしてくださいました。自分自身も、今後の診療において、常に探求心を持って日々過ごしていかねばと心新たにさせられた貴重な御講演でした。
(文責 吉川沙耶花)

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