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第62回アレルギー学会秋季学術大会参加録

 本学会は近畿大学 東田会長のもと11月29日(木曜日)~12月1日(土曜日)に亘って大阪で開催された。テーマは「これからのアレルギー学 期待から実践へ」だそうだ。我らアレルギー学を志すものにとっては、非常に重要な学会であることは申し上げるまでもない。
 いつも、半分おちゃらけたコラムになってしまい、多くのお叱りと(一部には称賛の声も)を受けるので今回はまじめに書いてみたい。
アレルギー学会にはいつもながら非常に多くの先生が参加しており、どの会場も多くの聴衆で埋まり熱気にあふれている。同じ時間帯に多くのセッションが同時進行するため、聞きたい演題が重なったときは非常に困る。私は水曜日の夜11時過ぎに到着し、木曜日朝から積極的に多くの講演を勉強させていただいた。自分の専門外の分野を拝聴できるのは非常にエキサイティングである。その中で最も印象に残ったのは、土曜日のシンポジウムにご講演された岐阜薬科大学の稲垣直樹先生の「ケラチノサイトが産生する液性因子」である。講演の趣旨を理解した範囲で簡単に解説する。「マウスの耳介にジニトロフルオロベンゼンを塗布し皮膚炎モデルを作成、このマウスの耳掻把行動がタクロリムス(免疫抑制剤)の1回塗布で抑制されるが、デキサメサゾン(ステロイド剤)では抑制されない。しかし、この系は実際のアトピー性皮膚炎のモデルとは少し異なることから、実際にダニ虫体から抽出したエキスを購入してこれを耳に塗布し感作したが、軽度の皮膚炎しか惹起されなかった。そこで、実際にダニの培養を試みたが、なかなかダニは増えなかった。一方、糞は結構培養皿に集まったのでこれを耳に塗布し感作してみた。すると、非常に強い皮膚炎が惹起され、頻回の掻把行動も認められるではないか!!。この掻把行動はタクロリムスの単回投与では抑制できず、連続投与で抑制され、またデキサメサゾンも連続投与で抑制した。すなわちジニトロフルオロベンゼンの実験系とは結果が異なった。この掻把行動に神経性成長因子が関与していること、神経成長因子を抑制するsiRNAを皮膚透過させるinvivofectamine?という物質と一緒に耳に塗布することで皮膚炎が抑制された。」、と解説されていた。一番感動したのは、ダニの虫体エキスより糞抽出物の方が皮膚炎を強く惹起する点である。日本では通年性アレルギーや喘息の免疫療法にハウスダストエキスを使用しており、アメリカやヨーロッパではダニエキスを使用している。しかし、本当は虫体よりダニの糞抽出物の方が有効性が高まるかもしれないかもなどと考えさせられた。
 私が学会前から最も興味をいだいていた「アレルギー専門医制度討論会」のセッションは土曜日の午後に開かれた。実際に専門医制度評価認定機構の代表者、患者さんやマスコミ関係の方、そして各科の代表(内科代表として我がアレルギーセンター長の永田教授も熱弁をふるわれた)がプレゼンテーターとして参加し、これからのアレルギー専門医制度の在り方が議論された。現在の「アレルギー専門医」にはいくつか問題点が指摘されている。その1つは各医院が診療科を自由標榜できる制度であるため、誰でも「アレルギー科」を標榜できることである。そのため、実際にアレルギー症状がある患者さんが受診しても適切な診療が受けられず、患者に不利益になっている実例が紹介された。また、実際にアレルギーをサブスペシャリティーとしていても、例えば「耳鼻咽喉科のアレルギー専門医が気管支喘息やアトピー性皮膚炎を適切に治療できるか?」というと、疑問符がついてしまう。すなわち、日本にはtotal allergist(総合アレルギー科医)がほとんど実在しないのである。アレルギー学会でその点について真剣に論議されているようだが、今後の専門医制度の在り方は学会主導ではなく、第3者機構である「専門医制度評価認定機構」が中心となって定められていくらしい。2020年頃から新しい制度が運用されるとのことである。私は耳鼻咽喉科医であるが、現在当アレルギーセンターで呼吸器内科・小児科・皮膚科のアレルギー疾患の診断・治療を学ばせていただき、まさに真のtotal allergistを目指しているわけで、今後の動向が非常に気になる。実際にtotal allergistの養成が制度化されるとなると研修方法や研修施設の地域格差など問題は少なくない。我が埼玉医科大学のアレルギーセンターは非常に良いモデルになるかもしれない。
 私自身の演題も奇しくもtotal allergistに関連したものであった。すなわち、実際に耳鼻咽喉科を受診する患者さんの中には下気道症状を潜在的に患っている方も多い。そのような隠れた患者さんを拾い上げ、適切に治療することが、患者さんをハッピーにさせるという内容で述べさせていただいた。埼玉医大での修行もそろそろ1年半になる。このような発表は以前の自分には不可能であったと思う。
 さて、当アレルギーセンターからは呼吸器内科、小児科、免疫学と多くのDrが学会に参加し、シンポジストに、座長に、と皆さん大活躍していた。しかし、金曜日に開かれた懇親会には少数しか参加していなかったようだ。懇親会場に小児科徳山ボスとその手下を見つけた私は、懇親会後の小児科懇親会にご一緒させていただいた。しかし、私の財布の中には1000円札が2枚のみ。徳山先生・中野先生・古賀先生お世話になりました。「大阪名物串揚げ」 ご馳走様。
 もしtotal allergistに興味ある医師がいたら是非埼玉医科大学アレルギーセンターで一緒に働きませんか? (文責 上條 篤)

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