2023年6月30日金曜夕方、第71回アレルギーフォーラムが開催されました。慶應義塾大学呼吸器内科の正木克宜先生より「成人食物アレルギー診療の実践と展開」というタイトルで、近年激増している成人の食物アレルギーに関する講演をいただきました。本学の講堂での現地開催とオンラインとのハイブリッド開催でしたが、第4講堂で直接講演くださいました。正木先生は、実臨床で感じた問題点を拾い上げ、アプリなどの最新兵器を使いながら、真摯に取り組み、またその結果を情報発信している、新進気鋭の先生です。食物アレルギーは、市中病院で仕事をされているときに、周囲の認知度が低く、取り組まなくてはいけないと感じたそうです。実際に悩まれながら診療していることもあって、とても説得力があり、passionにあふれる講演でした。小児の食物アレルギー診療は、診断や指導が大変進歩しており、ある種「標準化」されている面がありますが、成人の食物アレルギーは多様で、診断や病態把握が難しい症例も多く、指導も標準化されていない状況と思います。
講演では、即時型アレルギーと遅延型アレルギーの説明後に、成人の食物アレルギーで経験する典型的な症例を提示されました。バラ科の果物アレルギーでは、シラカンバ・ハンノキ花粉症に関連する花粉食物アレルギー症候群(PFAS)が有名ですが、このアレルギーは口腔内に限局することが多く、缶詰など一度加熱した果物は摂取可能であることが知られています。しかし最近は、桃などによる、より重症の全身症状を誘発する果物アレルギーが知られるようになりました。これらのアレルギーにはlipid transfer protein(LTP)やgibberellin regulated protein(GRP)というタンパクが関与しており、耐熱性であるため、鑑別が重要です。もちろん問診が重要ですが、果物の皮を使ったプリックテストや市販のプリック液でのプリックテストの有用性にも言及がありました。
魚アレルギーもしばしば成人で診る食物アレルギーです。40代以上の魚アレルギーのほとんどはアニサキスアレルギーであることもお話しされました。また若い方の魚アレルギーでは、魚ごとの相同性が60-90%であるパルプアルブミンによることが多く、耐熱性ですが、水様性であるため、水煮缶などは摂取できることもあるとのことでした。実臨床では、スコンブロイド食中毒(ヒスタミン中毒)もしばしばみられますが、近海でとれる青魚などは室温で放置されることも多いので、関与しやすいとのことです。
口内の金属の溶出による遅延型アレルギーなど興味深い症例も、見せていただき、その後、食物アレルギー診療の均てん化や教育目的でのアプリ開発の話、慶應義塾大学アレルギーセンター、ENGAGE-TFなどの話をされました。内科だけでなく、耳鼻科、皮膚科、小児科にも有用な話をいただき、当院関連の医師、研修医、看護師、学生にとって、大変勉強になったと思います。この場をお借りして感謝申し上げます。
(文責:呼吸器内科 中込一之)
講演いただいた正木克宜先生